資本政策における安定株主の範囲について
安定株主対策についてのお話です。
資本政策といったら、まず安定株主対策ですね。もはやご存知だと思いますが、念のため繰り返しますが、調達したい資金が増加すればするほど、経営者の持株比率は低下します。この調達金額と経営者の持株比率がトレードオフの関係にあるからこそ、どのように資金を調達して、かつ安定した会社経営を維持するかと言うことが資本政策の根幹であります。しかし、公開したら誰でも株主になれるわけですから、公開前から安定株主対策が必要となるのですね。
この調達金額と経営者の持株比率とのトレードオフの関係は避けては通れませんので、この問題は結局のところ、経営者がどこまで持株比率低下を容認できるかと言う問題です。それでは、まずこの持株比率が経営権に及ぼす影響を以下に示します。
持株比率
1%〜 総会決議提案権
3%〜 総会召集請求権、帳簿閲覧権等
10%〜 会社解散請求権
15〜20% 持分法適用
25%超 相互持合議決権制限
1/3超 株主総会で特別決議を否決可能
1/2超 株主総会で普通決議が可能(取締役の選任・解任、計算書承認等)
2/3超 株主総会で特別決議が可能(減資、合併、事業譲渡、株式交換、株式移転、有利発行による第三者割当増資、定款変更等)
この中で、最も経営権に影響を及ぼすのが、1/3超、1/2超、2/3超という比率です。
経営者及びその一族で、2/3超を維持できればほぼすべてのことができますので、完全に経営権を掌握していると言えます。しかし、経営者一族で難しい場合には、次善の策として、安定株主を含めた持株比率で、2/3超を確保できるかどうかです。そこで、重要となるのが、安定株主に含める範囲です。
ここで、安定株主の範囲を検討する前に、実際の上場申請時における経営陣の持株比率をみてみますと、2/3超を維持しているのが1/3程度、1/2超を維持しているのが2割程度、1/3超を維持しているのが2割程度、1/3以下が残り約25%となっております。
実際には、1/3超を維持できない場合もかなりありますね。もちろん、上場会社の子会社が公開する場合などでは、経営陣が1/3以上有している場合はほとんど無いでしょうし、こうした場合も含まれていますが、それでも結構多いですね。
それでは、安定株主の範囲を見ていきます。まず、株主をグループに分けます。株主は、経営者一族、非同族の役員、従業員(従業員持株会)、取引先、金融機関、ベンチャーキャピタルに分かれます。
一般的に安定株主というときには、経営者一族、非同族の役員、従業員(従業員持株会)、取引先までではないでしょうか。しかし、これらの中でもすべてが絶対の安定株主というわけではないということは明らかです。まず、経営者一族は通常は当然安定株主ですが、相続のより株式が分散されていきますと、必ずしも安定株主とは言えなくなってきます。相続を見据えた対策が必要になります。次に、非同族役員ですが、会社に勤めている間は問題ないのですが、退職後は必ずしも安定株主ではありません。従いまして、退職時期を踏まえた対策が必要となります。更に、従業員(従業員持株会)ですが、非同族役員と同様に退職時の問題がありますので、注意が必要です。近年、終身雇用制度は崩壊していますから、従業員の意識も従来とは異なってきています。次に、取引先ですが、昨今の持合は業務提携を視野に入れた場合が多いと思いますが、逆に言えば、事業上のつながりが希薄になった場合には、安定株主にはならない危険性があります。
他にも金融機関(そもそも本体で株式を保有することはあまりないと思います)やVCが株主にはいますが、いずれも言葉どおりの安定株主とは言えないと思います。もちろん、「安定株主的な」金融機関、VCはおりますが、安定株主として、資本政策を作成するのは難しいのではないでしょうか。
安定株主と一口には言い切れない、各人のそれぞれの立場がありますので、資本政策立案の際には、そこいら辺も頭の片隅に入れておきましょう。